タイの石臼「クロック・ヒン」と、台所に迎える前に知っておきたいこと

レッスンでよく聞かれる質問があります。

「先生、このクロック、どこで買いましたか?」

というわけで、今日はクロックの話を。

ベトナム料理教室なのに、今日はタイの道具の話です。

ベトナムのおかってには、代々木アトリエに2つ。
津田沼アトリエには、石製のクロックと素焼きのクロックが1つずつ。
合わせて4つのクロックがあります。

レッスンで使ったことがある方なら、たぶん最初の感想は同じ。

「重っ。」

そう。重いんです。

片手でひょい、とはいきません。

そしてクロックを買おうか迷っている方から聞くのも、

「こんなに重たいの、使いこなせるかな」
「フードプロセッサーでよくないですか?」
「クロックを使う料理って、なんだか手間がかかりそう」

だいたいこのあたり。

クロック、第一印象がちょっと不利です。

でも先に言っておきます。

フードプロセッサーでもいいです。便利ですから。

ただ、クロックにはクロックが得意な仕事があります。

そして一度その仕事が分かってしまうと、あんなに大げさに見えていた石の塊が、だんだん普通の調理器具に見えてきます。

そのころには、もうこちら側です。


そもそも「クロック」とは?

日本では「クロック=タイの石臼」と紹介されることも多いのですが、正確には少し違います。

タイ語の ครก|khrók(クロック) は、食材を搗いたり潰したりする「臼」のこと。

石だけではありません。

石のものは ครกหิน|クロック・ヒン。
木製は ครกไม้|クロック・マイ。
素焼きは ครกดินเผา|クロック・ディンパオ。

そして、一緒に使う棒状の道具、つまり杵にあたるものが สาก|サーク です。

タイ料理を習ったとき、先生から最初に教わったのが、このクロックの使い分けでした。
石、木、素焼き。
見た目が違うだけではありません。
作る料理によって、それぞれ得意な仕事があります。


クロックは、素材や形によって得意な仕事が違う道具です。
何を作るかで、使うクロックも変わる。力加減もそう。
ここを知ると、タイ料理の台所が少し面白く見えてきます。

(あ、ここはベトナム料理教室なんですけどね。)


石のクロックは、何が得意なのか

ベトナムのおかってのレッスンで使っているのは、花崗岩の クロック・ヒン です。

クロックヒン

クロック・ヒンが得意なのは、しっかり細かくしたいもの。

唐辛子、にんにく、胡椒、香辛料。
そして、タイ料理に欠かせないカレーペーストやナムプリックも、このクロックの得意分野です。

硬く、重い花崗岩のクロックは、食材を細かく搗いていく仕事に向いています。

ただ、その仕事を単なる「みじん切り」と考えると、少し違います。

包丁は、切る。
フードプロセッサーは、刃で細かくする。

クロックは、

叩く。潰す。擦る。
そして、カレーペーストでは少しずつひとつにしていく。

レモングラスの繊維を崩し、香辛料を砕き、にんにくやホムデーンを加えながら、ばらばらだった材料をひとつのペーストへまとめていきます。

もうひとつ大事なのが 「順番」。

タイの先生にも教わりましたが、材料を全部まとめて放り込んで「はい、トントントン」ではありません。

硬いもの。
乾いたもの。
繊維の強いもの。
水分を含むもの。

材料の性質を見ながら、順にクロックへ。

何を入れるかと同じくらい、いつ入れるか。

クロックは、順番まで含めて料理なのです。

石臼に入れる順番

青いパパイヤのソムタムのクロックは、また別の話

クロックと聞いて、青いパパイヤのソムタムを思い浮かべる方も多いと思います。

現地の市場や屋台で、トン、トン、トン。

軽快なリズムでおばちゃん達が青いパパイヤのサラダを作っています。

では、青いパパイヤのソムタムも花崗岩のクロック・ヒンで作るのでしょうか。

タイ料理の基本的な使い分けでは、ソムタムには木製や素焼きのクロックがよく使われます。

理由は、ソムタムが「細かく潰す料理」ではないから。

唐辛子やにんにくは搗いて香りを出す。
けれど、青パパイヤまで潰してしまいたいわけではありません。

欲しいのは、あの歯ざわりです。

カレーペーストは、潰したい。
ソムタムは、細かく潰したくない。

以前、タイ料理の先生から、こんな話を聞きました。

日本のマルシェで売られていた青いパパイヤのソムタムを買ったところ、青パパイヤの形が崩れるほど強く搗かれていて驚いたのだそうです。

先生のお話では、そのソムタムは石のクロックで青パパイヤまで強く潰して作られていたそう。

この話を聞いたとき、ふと思い出した言葉があります。

栄養大の調理学の先生や、前職の料理教室の上司から、口を酸っぱくして言われてきたこと。

「道具を知ることは、料理を知ること」

今は、YouTubeやインターネットで、世界各国の料理のレシピや作り方を見られる時代です。

けれど、材料と分量、手順をなぞるだけでは、再現しきれないものがあります。

前職の料理教室で新人だった頃は、ゴムベラひとつの扱い方から、盛りつけに使う菜箸の持ち方、ひとつひとつの所作まで、よく叱られたものです。

混ぜているつもりでも、混ざっていない。
同じように盛りつけたつもりでも、どこか違う。

その「つもり」と仕上がりの間に、道具の扱い方がありました。

タイの先生のお話を聞いて、クロックも同じことなのだなと、当時教わったことがよみがえります。

こちらは、津田沼アトリエにある素焼きのクロック。

レッスン用ではなく、もっぱら私の「おうちタイ料理」用です。

青パパイヤのソムタムを作って、ビールを楽しみたい。

そのために購入しました。

ぽく、ぽく、ぽく。

軽快にいきたいところですが、このリズムと力加減が毎度なかなか難しい。

タイの屋台のおばちゃんたちは、あんなに何気なくやっているのに。

あの手つきに近づきたいと、クロックの前で奮闘しています。

ビールにたどり着くまでにも、学びがあるのです。

私自身、ベトナム料理もタイ料理も、まだまだ学んでいる途中ですが、同じ材料を使っていても、叩き方や力の加減で、食感や仕上がりは変わります。

料理には、「なぜそうするのか」がたくさん詰まっています。

ひとつわかると、また次の疑問が出てくる。終わりがなくて、なかなか深い沼です。

もちろん、楽しく作って、おいしく食べることがモットー。

知るほどに、台所でできることが増えていく。

その楽しさを、レッスンでもお伝えしていきたいと思っています。


クロックヒンの重さには、ちゃんと理由がある

さて。

話を、あの石臼の重さに戻します。

クロックヒンの最大のデメリットは何ですか、と聞かれたら、

重いこと。

では、クロックヒンのいいところは何ですか、と聞かれても、

やっぱり、重いこと。

と答えたくなります。

石のクロックは、土台そのものに重量があります。

搗くたびにクロックまで動いてしまったら、料理どころではありません。

実際、ベトナムのおかってで使っている大きい方のクロックヒンは約4kgあります。

直径18cm、高さ15cmのタイ産花崗岩製です。

クロックヒン

これよりも小さいクロックの方が扱いやすそう、と思うかもしれません。

もちろん少量のスパイスやにんにくを潰すなら、小さいものも便利です。

ただ、私自身はいくつか使ってきて、ある程度大きさと重さがある方が、カレーペーストや繊維の強い食材をしっかり搗く仕事は断然やりやすいと感じています。

軽さだけを基準に選んでしまうと、

「軽いけど、なかなか潰れない」

という、クロックヒンの良さが一番分からないところに着地することがあります。

クロックヒン選び。

持ち運びやすさと、搗きやすさ。

何をどのくらい作るかで、ちょうどいい大きさも変わります。

ベトナムのおかってで使っているクロックは?

さて。

ここまでずいぶん話が長くなりましたが、

結局、石臼はどこで買ったの?

という最初の質問へ戻ります。

「タイで買ってきたんですか?」ともよく聞かれます。

いいえ。日本で購入しました。

何キロもある石をスーツケースに入れて帰国する勇気は、私にはありませんでした。笑

私が購入した大きい方のクロックは、国内の通販で送料無料。

重たい石臼を玄関まで届けてもらえるのですから、ありがたい時代です。

代々木・津田沼で使っている大きいクロック

ベトナムのおかってでメインに使っているのはこちら。

タイの台所|クロック ストーンミルセット

直径18cm、高さ15cm、重さ約4kg。
タイ産の花崗岩製です。

カレーペーストやスパイスをしっかり搗くなら、このくらいの大きさが私は使いやすいです。

代々木にある小さめのクロックヒン

もうひとつが、とってもお洒落な、四角い小さめのクロック・ヒンです。

roughAsia|クロックヒン「うすたむ」

高さ・横幅ともに約12cm、深さ7cm。クロック本体が約3.2kg、サークが約350gです。

天然の花崗岩を使い、職人の手仕事で作られているため、石の色、模様、形、小さな欠けなど一つ一つ個体差があります。

ちなみに、ショップの現在の商品写真と、代々木アトリエにあるものでは石の色味が異なります。

代々木アトリエのものは ほんの〜りピンク色。

天然石。同じ顔をしたクロックは、ありません。


クロックヒン|買ったら、戸棚にしまってはいけません。

これは完全に私の持論ですが。

クロックを買ったら、

戸棚の奥にしまってはいけません。

なんでかって?

たぶん、二度とその扉を開けないからです。

4kgの石臼を戸棚の奥から取り出し、

料理をして、
洗って、
また4kgを戸棚の奥へ戻す。

想像しただけで、使う回数が減りそうです。

おすすめは、クロックを見えるところに置くこと。
しかも、手を伸ばせばすぐ使える、安定した場所に。

そうすると、
「今日はクロックを使う料理を作るぞ」
ではなく、
「これ、クロックで潰した方が早いな」
に変わってきます。

にんにく、生姜、胡椒、胡麻。
少量の香味野菜やスパイスを潰すなら、包丁で細かく刻むより、クロックの方が早いこともあります。

もちろん、刻むか潰すかは、作りたい料理に合わせて。

フードプロセッサーなら、本体を出して、刃をセットして、使い終わったらパーツを外して洗う。

出してあるクロックなら、
搗く。
洗う。
あとは、よく乾かす。

刃も、分解する部品もありません。roughAsiaの商品ページでも、使用後は早めに洗い、十分に乾燥させるよう案内されています。

クロックヒンは、重いけれど、後片づけはけっこう身軽なのです。


石臼を調べて、アーンシラーに行き着く

購入先をご紹介するつもりで調べ始めたクロック。気づけば、タイのある街の歴史にまでたどり着いていました。

อ่างศิลา|Ang Sila(アーンシラー)。

タイ東部、チョンブリー県の海沿いにある、花崗岩の石臼づくりで知られる街です。

この土地の「ครกหินอ่างศิลา|アーンシラーの石臼」は、タイの地理的表示「GI」に登録されています。

GIは、土地の自然条件や、受け継がれてきた技術などと結びついた産品の名称を保護する制度。

台所で使う石臼にも、産地の名を守る仕組みがあるのです。

特徴は、丈夫な花崗岩を使った丸みのある形と、両側についた二つの「耳」。

重たい石臼を持ち上げるための持ち手です。

では、なぜこの街で石臼づくりが盛んになったのでしょうか。

その始まりについては、資料によって異なる説明が残されています。

GI登録資料では、第二次世界大戦中の1942年、中国人の石工が寺院の石柱を作った際、残った石で臼を作った経緯が紹介されています。

一方、タイ文化省芸術局の資料では、この土地の中国系住民が、料理や先祖への供物に使う粉を挽くために製粉用の石臼を作り、その端材から調理用のクロックを作ったと説明されています。

いずれの説明にも共通するのは、石を加工する技術と、残った材料を暮らしの道具に生かす工夫です。

もちろん、これはアーンシラーという産地の歴史。タイのクロックそのものの始まりを示すものではありません。

それでも、台所にある石臼の向こうに、土地と職人の仕事があることを知ると、見慣れた道具が少し違って見えてきます。

そして、調べているうちに、私自身がこの街へ石臼を買いに行きたくなってしまいました。

「重たい石臼は、日本の通販で買うのが便利」と書いていたのに。知ると、気持ちも変わるものです。

大小の石臼を見比べ、石の色や模様を確かめ、ひとつずつ手に取ってみたい。できることなら、職人が石を削り、形を整える仕事も見てみたい。

そうして選んだひとつを、日本の台所へ連れて帰る。

帰りの荷物は重くなりそうですが、石臼を探す旅も、なかなか悪くないかもしれません。

購入先を聞かれて調べ始めたはずが、とうとう次の旅の行き先まで増えてしまいました。

ベトナムのおかっての皆さん、一緒に行きませんか。笑


クロックは、ただ食材を潰す道具ではありません。

細かく搗くのか、歯ざわりを残して和えるのか。

作りたい料理によって材質を選び、入れる順番や力加減を変える。

その使い方には、料理の「なぜ」が詰まっています。

これから購入を考えている方も、この記事で興味を持ってくださった方も、まずはベトナムのおかってレッスンで手に取ってみてください。

重さも、搗く感触も、立ち上がる香りも、実際に使うとよく分かります。

石臼の話に、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

皆さんの台所にも、ひと搗きから始まる楽しみが増えますように。

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ほし じゅんこ

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代々木アトリエ
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10/31 (土) 午前:No.73 ハスの葉包みごはん ¥9,500/午後:No.73 ハスの葉包みごはん ¥9,500
11/01 (日) No.73 ハスの葉包みごはん ¥9,500
11/19 (木) No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500
11/21 (土) 午前:No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500/午後:No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500
11/22 (日) No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500
11/26 (木)
満
No.15 かもはら農園新米レッスン ¥9,500
12/03 (木) No.3 チャーカーハノイ ¥9,500
12/17 (木) No.75 ベトナム式ビーフシチュー(Bò Kho)¥9,500
12/19 (土) 午前:No.75 ベトナム式ビーフシチュー(Bò Kho)¥9,500/午後:No.75 ベトナム式ビーフシチュー(Bò Kho)¥9,500
12/20 (日) No.75 ベトナム式ビーフシチュー(Bò Kho)¥9,500

千葉レッスン

津田沼アトリエ
10:00 15:00 レッスン内容
10/17 (土) ★ミヤマツリ/バインミー販売
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10/20 (火) ★andR cafe /バインミーランチ営業
10/25 (日) 午前:No.72 夏旅の余韻 ごはんとおかずレッスン ¥9,500/ 午後:No.38 ハノイの鶏おこわ ¥9,500
10/26 (月) ★ベトナムカフェ食堂@Brown sound coffee(津田沼)
11/02 (月) No.3 チャーカーハノイ ¥9,500
11/04 (水) No.1 パリッパリ!バインセオレッスン ¥9,500
11/10 (火) No.29 ベトナム式パッタイ?!炒めフォー ¥9,500
11/18 (水) No.63 焼肉バインミー ¥9,500
11/20 (金) No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500
11/29 (日) 午前:No.66 ベトナム式焼き肉 ¥9,500/ 午後:No.32 牛串焼きのバインミー ¥9,500
11/30 (月)
満
No.66 ベトナム式焼き肉 ¥9,500
12/01 (火)
満
No.25 レモングラス五目鍋 ¥9,500
12/06 (日) 午前:No.74 再登場!かもはら農園の新米 おかわりしたくなるベトナムおかず ¥9,500
12/18 (金) No.75 ベトナム式ビーフシチュー(Bò Kho)¥9,500
12/30 (水) ★なみなみなます販売@ウツワヤマワ

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